SIGMA 19mm F2.8 DN Art(M4/3)
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万人にお薦めできるレンズではない物凄い癖玉ではあるが今いちばんのお気に入り。その微妙なスペックに購入前はかなり悩んだけれど買って正解だった。もっと明るくて描写の評判のよい単焦点やF2.8通しズームもあってかなり厳しい位置付けではあるが実際に使ってみると実に面白いレンズだ。
外観
思ったよりも高級感あり。フィルム時代の50mmレンズとほぼ同じサイズなのでOM-Dと合わせるとなかなか良い佇まい。でもツルテカなアルミのピントリングは指紋が目立つわ冬は冷たいわで何ともよろしくない。あまりの冷たさに耐えかねて部屋に転がっていた黒の製本テープをリングに貼ってしまった。ボロくなってきたら合皮でも貼り直すか。
M.ZUIKO 45mm F1.8の時も思ったのだが、ピントリングをもう少しだけ…ほんの数ミリでいいから細くしてレンズを左手でしっかり掴めるスペースを確保するべきじゃないのかな。気をつけていてもリングに触れてしまいがちでホールド性がよくない。そのせいで手振れしやすくなってる気がする。ミノルタの細いリングに慣れてるせいもあるだろうが「太いからMFしやすい」というのはすごく短絡的と感じる。Artになる前のEX DNのほうがピントリングの太さと鏡胴の長さのバランスは良かったし、ギザギザ刻みのあるプラだったんだよなぁ。
カメラの電源ONからレンズを認識して撮影可能になるまでにかかる時間はキットズームよりも少々遅い(1秒くらい余分にかかる?)があまり気にならない。ただし若干ムラがあって「あれ?」と思うくらい遅い時もある。(一応、旧タイプのEXよりArtのほうが高速化してるらしい)
オートフォーカスは無音でそこそこ速い。インナーフォーカスなので前玉は回らず全長の変化もなし。電源OFFにするとリニアモーターで浮遊していた中のレンズユニットがフリーになり、振るとコトコトと小さな音がする。これはそういう仕様なので気にする必要はない。
フード
フードは付属してるのだがAPS-C用なのであんまり効率がよくない。逆付けできるのはいいんだけれど、いちいち着け直すのも面倒だし。そこでステップアップリングを介して余っていた50mmレンズ用のメタルフードをつけた。ケラレもなく、レンズとフードの直径がピッタリ同じなので見た目も悪くない。(フード取り付け溝のスキマは空くけど)
50mm用メタルフードは55mm径のレンズキャップを使えばフードの先端じゃなくて内側にはめられるのがポイント。
描写
SIGMA 19mm F2.8の描写は悪くないのだが自分でRAW現像する人向け。本体の撮って出しjpgしか使わない人だとキットズームとの違いがわからない可能性すらある。(このページの画像は全てRAWTherapeeで現像)
現代レンズらしくコントラストは高め?曇天下の撮影でもやけにクリアで抜けのいい画になる。しかもシャドーがかなり粘るので階調表現はかなり好印象。
元が濃い画調ゆえにRAWTherapeeのフィルムシミュレーションを適用すると「上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき思想!」と言いたくなるようなクドすぎる画になってしまうので使用せず。
発色
SIGMA 19mmの色合いは赤と黄色が少し強め。太陽が中天にある時は普通に見えるが、陽が傾いてきたり光の状況によってはヤバいくらいに赤く染まる。他のオリンパスのレンズなどとカラーバランスが全く違うので同時使用はちょっと厳しい。その偏りのせいなのかちょっと独特な発色で赤・黄成分が混じると妙な透明感が出る。
解像度
画面中央の解像度はかなり高い。RAWTherapeeで現像すると1600万画素でこれ以上描き分けるのは無理じゃないのというくらい解像していて感心。しかしE-M10Mk2本体jpgだと線が太く強烈なシャープネスがかかってしまうためキットズームの解像感と大差がなくなってしまう…。
周辺の解像度はAPS-CどころかM4/3であってもけっこう落ちる(というか像面湾曲のせいでピント位置がズレてる)。でも流れたりはしないのでじゅうぶんな描写力。遠景や真正面から平面を撮るのでもない限りあまり気にはならないはず。
最短撮影距離は20cmだが、さすがにその距離で開放だとほわーんとした描写。でも、ちょっと離れたり絞ったりすれば改善するので普通に使っていける。
収差etc
単焦点なのだが少し像面湾曲があるようだ。困った事に初期型M.ZUIKO 14-42mmの19mm域よりも平面性が悪い感じ。近距離では全く気にならないが5m、10mと距離が離れるに従って目立ってくる。EVFできっちり主題にピントを合わせる程周辺がダメになるのがなんとも厄介。(微妙に片ボケしているような気が…) 遠景はできるだけ絞った上で中央を避けてピント合わせしたほうがいい。ピントリングは制限なくグルグル回っちゃうから無限遠もわからんし。距離指標はあったほうがよかったなぁ。
ボケはまあ…19mmだしこんなもんでしょ。大きくはボケないけれど悪くない。非球面レンズ多用のせいか光がキツいと年輪・玉葱ボケになる時もあるけど頻度は低い。
空に木の枝がかかってたりすると色収差が出たりするが、このへんは値段相応。コントラストが高い場所以外では目立たないので、たぶんチャート撮影だとアウト。RAWTherapeeの場合、色収差の自動補正と手動補正どちらがよいか画像によって結果が変わるのでちょい面倒。Olympus本体jpgだと色収差を自動で補正してくれてるような?
歪曲はわずかな樽型。フィルムで50mmレンズを使うのと同じくらい。角度によってはちょっと気になるかも。
逆光耐性はかなり良好。フードなしで撮影してもゴーストが出たカットはなし。フレアもほとんど目立たないが、たまに背景や構図外の強烈な光由来のフレアによるとおぼしき画面全体のわずかなコントラスト低下は見られた。前玉保護も兼ねてフードは一応装着したほうがよさげ。
レンズの明るさのようなスペックや性能を欲ばらず、サイズも無理に小型化せず。全てをほどほど・そこそこに抑えたのがいい方向に働いている印象。解像感や質感描写が自然でデジタル臭くない「写真」っぽい写りだ。光が強くても描写のエッジがガチガチに固くならないのはポイント高い。
(2020/4月追記:光の状況によっては空にかかる木の枝などエッジがガリガリになる事も…ちょっと線が太めかなぁ。ピントがキッチリ合っていれば現像でUSMかけないほうが自然なくらい。)
SIGMA 19mmの描写とE-M10mk2のISO100で白飛び上等・暗部階調重視は相性抜群の組み合わせ。特に光の印象の捉えかたが秀逸だ。色やトーンの出かたがポジフィルムっぽい画になりやすいのもちょっと嬉しい。14-42mmではこういう光の感じがうまく出ないんですわ。
基本的には現像で狙い通りのトーンが出しやすいのだが、こちらの予想を超えてSIGMA19mm独特の画が出てくる事も多い。この結果が少し読めない感じ…適度なコントロール性と意外性が楽しくて現像が止められない。このお値段でこれだけ写れば満足、満足。
50mmF1.4の換算100mm画角に慣れてしまっていたので換算38mmでも広すぎてなかなか使いこなせないのだがそのうち馴染むだろう。しかし、これだけいい感じだとSIGMAのF2.8レンズ3兄弟で揃えたくなるなぁ。