画素数とプリントサイズと鑑賞距離
「…万画素なら…サイズまでプリントOK」「画素数の低い写真をバカデカいサイズにプリントしても人は適切な距離を保って鑑賞するから平気だよ」みたいな話をよく見かけるけどそれは本当か?まぁ正しいとも間違っているとも言い難い微妙なところですわね。
画素数とプリントサイズ
まず最初にいっちゃうと同じ画素数でもセンサーサイズやレンズ、画像処理など他の要因でいくらでも画質が変わってくる。そして画質が変われば当然プリントの仕上がりも変わる。なので単に画素数だけでどうこう言うのはちょっとズレてる。ちなみにFoveonは元の解像感がやたらに高いからベイヤーよりはるかに引き伸ばし耐性が高いそうな。
それに「どんな写真かというのでも要求される画質が全然違うから一概には言えんだろ」というのもある。お花のアップで背景ボケボケ日の丸構図だったらちょっとぐらい画像が甘くたって気にならないだろうし、風景(特に遠景)の場合は細部の情報量が欲しくなるだろうしね。
絵でも写真でも大きさの力ってやっぱり存在するのだが、その一方で大画面を保たせるためには仕事量や情報量といった密度や絵としての構成力が必要になってくる。
自分の感覚だとA3カラープリントはベイヤーAPS-Cセンサーだと1000万画素ぐらいからがOKライン。ただしモノクロプリントになるとカラーよりも高解像度が必要な感じ。アクロスで撮ってきっちりルーペでピントを合わせて焼いたのと較べちゃうと1000万画素程度じゃ厳しいねぇ。
APS-C600万画素
昔APS-C600万画素の写真をA3プリントしてみた事があったけれど正直キツかった。レタッチで何度かにわけて少しづつ拡大を繰り返す(一度に拡大するよりは結果が良い)→シャープネス処理→質感を与えるためノイズ付与とかやったけれど、手間がかかる割に仕上がりは今イチ。屋根瓦みたいなのは元の画素数がないとどうにもならんです。
ちょうど全体を見渡せる距離からプリントを眺めても画像ビューアで150%か200%に拡大したような感じの見え方。プリンタドライバやレタッチソフトで拡大かけても元々の情報量が増える訳じゃない。これじゃあ何がしたくて・何を見せたくてその大きさにプリントしたのか意味不明で微妙だよなぁ。
コンデジ5〜800万画素
コンデジはAPS-Cデジタル一眼レフを買ってからほとんど使っていないし機種毎の画質差も大きすぎるから何ともいえず。とりあえずの例ではRICOHのCaplio GXが500万画素だったけどA4はシャープネス処理のリンギングなどが目立ってちょっと厳しいが被写体によってはアリ、2Lなら全然問題なし。おそらくもっと上質な画像処理をしているカメラなら500万画素でもA4はOKと思われる。
GX8の800万画素でプリントが1サイズアップOKだけど、A4では画像処理の質やDレンジの差のせいでAPS-C600万画素一眼レフには劣って見え、画素数による情報量が多いぶんA3では勝る印象だった。
プリントサイズに対して画素数が足りていれば画像処理や画質差、足りていなければ画素数の差がストレートに出るという事か。極小画素ピッチの縮小画像じゃないとまともに見えないようなコンデジ画像だとどうなんだろね。
(追記:他の手持ちのコンデジだとオリンパスのμ-mini digital Sは同じく500万画素だがGXよりもセンサーサイズが小さく暗部描写が比べ物にならないぐらい悪い。A4まで大きくプリントするとドロドロに溶けた暗部が目立ちすぎるので2Lまでに留めておくのが無難。)
制作意図
プリントに限った話じゃなくて写真に限らず作品制作全般に言える事なんだが、結局のところは自分が見て気になるかどうかがまず一番最初にくるんだよね。
例えば土門拳はシャープにキリっと写った写真が好きなので三脚立ててできるだけレンズを絞りこんで撮る人だったんですが「35mmフィルムは印画紙の全紙のサイズまで問題なく引き伸ばせるけれども、網版印刷になると解像度がとたんに足りなくなる。だから雑誌の仕事ではもっと大きいフォーマットを使うようにしている。」みたいな事を書いている。
こういう感じで自分がどうしたいのか何を見せたいのかという作者の制作意図やクオリティに対する要求の問題な訳ですよ。極端な話、QV-10の25万画素の画像を全紙やA0に引き伸ばしたって本人が気にならない・この作品はそういう表現だというのならOKな訳です。だからこういう話は議論が噛み合わない
また、作品を見た人がどう感じるかは当然だけど別問題です。展示なんかやると色々とこちらが考えていないような所まで制作意図を突っ込まれたりするもんです。
適切な鑑賞距離って?
美術館やギャラリーで観客を観察してたらわかるんだけど、小さい作品でもない限り一定の距離からしか見ないなんてありえないのだよね。離れて全体を見たり近寄って細部を見たりで定まらないってのが普通で、作品の情報量とサイズによっても結構変化する。
巨大なプリントで細かくゴチャゴチャ写っているような情報量の多い写真は接近して見たがる人が多い。見る人からすれば「どこまで写ってるんだろう?」「何か写っているに違いない」みたいな心理も働いてついつい近寄っちゃうみたい。とある展示でコンデジの画像を数百枚繋ぎ合わせて横幅数m(たしか10mはなかったはず…)の超高解像度なパノラマ風景写真に仕上げた作品があったけれど、当然みんな近寄って見てました。
六切程度のサイズだと一目で全体も見渡せちゃう距離と細部がよく見える距離がほぼ同じだから大抵の人は一定の距離でしか見ない。
どこまで近寄るかは「これ以上寄ってもしょうがない」と鑑賞者が感じる距離まで。デジタル写真でいうと質感を失って画像として破綻しちゃうような距離までくると大抵はストップする。
ただしプリント技術や素材に興味のある人はその限りではない。そういう人はガンガン寄って覗きこむし、中には触って質感を確かめようとしたりする人も…。これは写真に限らず絵画でも同じようなモンです。
そういう意味では「適切な距離でしか鑑賞しない」というのは間違っていないのかな。その"適切な距離"ってのは人それぞれなので「このくらいのサイズのプリントなら何cm…」とか一概には言えないけれど。
とにかく『……に書いてあったから……dpi以上ないとダメ!』みたいに考えるよりも、実際に出力して自分が納得いく数値を探るのが一番ですよ。まずは小さい用紙に切り抜き画像を自分の想定しているサイズとdpiが同じになるように設定してプリントするとか。
まあ、結局は正解のない問答って事になっちゃうんですかね。